マイインターン【映画感想】

 

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 綺麗なハンカチを持って、会社に行きたくなる映画だった。


 退職し、妻に先立たれた七十歳のベンは、有り余る時間をヨガや旅行、読書に費やす日々を過ごしていた。そんな日々に空しさを覚える中、スーパーでシニアインターン募集のチラシ

を手に入れる。募集先は、たった一年半で会社を二百四十人規模にしたアパレル通販会社。パソコンの電源の入れ方すら分からないベンが、多忙を極める若き女社長の側で奮闘することとなる。


 まず、この映画の主役はロバート・デ・ニーロ演ずるベンだが、物語のスポットが当たっているのは、主にアンハサウェイ演じるジュールズだ。タイトルはドラえもんだが、主人公はのび太といったようなものだ。
 

一年半前、ジュールズは自宅の台所で通販サイトを始めた。すべての製品を自分が着るというコンセプトが受け、会社は急成長。現代らしいネット発の成功者だ。
 彼女は社長だが、一方で可愛らし愛すべき女性でもある。家に帰れば主夫である夫と娘を愛する母親であるし、説教をする実の母親にこっそり悪態もつくひとりの人間である。そして

自分のいびきがうるさいのを気にしている。忙殺される社員とジュールズ自身のために外部からCEOを迎えることを提案された時は、泣きながら嫌だと言う。彼女は仕事と会社を愛しているのだ。社長ながら自ら工場に赴き、丁寧に従業員に梱包作業を教えるシーンもある。


 一方ベンは初日からうきうきと、目覚ましが鳴る前に起き、スーツをかっちり着込んで四十年ものの鞄を持って出社する。鬱々と平日の朝を過ご私たちす大半の人間とは、一線を画した存在だ。彼は金銭のためでも、社会的立場のためでも無い。ただ自分が社会に参加出来ることが、働くことそのものが、喜びなのだ。


 はじめは「高齢者が苦手」なジュールズからは何の仕事も与えられず、放置される、だがここで腐らず、「行動あるのみ」なベン。雑用を進んで手伝い、facebookデビューも果たし、

徐々にパソコンも使いこなしていく。時には、孫のような年齢の同僚から恋愛相談を受けるなどして、信頼を勝ち得ていく。


 そしてひょんなことから、ベンはジュールズの運転手を任されることになる。そして順調にベンはジュールズの仕事面だけでは無く、私生活にまで溶け込んでいく。CEO候補との面接、夫の浮気問題で疲弊するジュールズのよき友、よきパートナーとなる。印象的なのは、オフィスの真ん中で物が散乱しているテーブルをベンがすっかり片づけてしまったことだ。これにジュールズはすっかり感激してしまう。なんでもかんでも起きっぱなしにして、仕事効率を下げてしまっているには刺さる話だろう。


 唯一温厚なベンがジュールズに苦言を呈したシーンがある。飛行機でパソコンと格闘するジュールズに、せっかくだからファーストクラスの旅を楽しみたいと言うのだ。目の前の相手を構わず、電子機器との会話に耽る現代人にありがちな行為だ。余談だが、ニューヨークでは、各スマートフォンを机の真ん中に重ねて、はじめに手に取ってしまった人が料理の代金を支払わされるというゲームが流行っているらしい。


 「仕事」には「金を貰うために致し方なくやる苦行」という意味がつきまとう。同じ賃金ならば、労働時間は少なければ少ないほどいい。
 しかしジュールズとベンは、心の底から自身の仕事を愛している。困難にあっても、根底には社会に参加出来る喜び、仲間と分かち会える喜びにあふれている。


 皆が皆このようなモチベーションで仕事を出来る、というのは綺麗事だろう。
 しかしせめて、自身の仕事が誰かに某かを与えている、という喜びを感じられる一瞬があるといい。自らが発送したドレスを着て微笑む客の写真を見たジュールズの笑顔が、この映画の核を物語っている。


 もちろん、出勤の際にはポケットにハンカチを忘れずに。